診療案内

末梢動脈疾患

末梢動脈疾患とは

末梢動脈疾患の分類

「末梢動脈疾患」は、冠動脈以外の末梢動脈である四肢動脈、頸動脈、腹部内臓動脈、腎動脈、および大動脈の閉塞性疾患です。閉塞性動脈疾患の病態は、動脈硬化や血管炎、外傷、解剖学的走行異常、形成異常など原因がさまざまです。

下肢閉塞性動脈疾患 (LEAD : Lower Extremity Artery Disease)

LEADとは

LEADを生じる原因疾患・病態はさまざまですが、その中でも大部分を占めるアテローム硬化性の末梢動脈疾患を動脈硬化性LEADと表現しています。動脈硬化性 LEADは、従来からわが国で用いられてきた下肢閉塞性動脈硬化症(下肢arteriosclerosis obliterans: 下肢ASO)と同義です。
発症時期による分類では、急性虚血と慢性虚血があります。急性動脈閉塞による急性下肢虚血(acute limb ischemia: ALI)は、迅速な診断と適切な治療を行わなければ、肢のみならず生命予後も不良となる疾患です。
非動脈硬化性疾患は血管炎や発生異常を含むさまざまな病態を含んでいます。血管炎では、バージャー病、高安動脈炎、膠原病関連血管炎などが末梢動脈疾患(Peripheral artery disease: PAD)の原因として挙げられます。遺残坐骨動脈は、閉塞性病変を生じ下肢虚血の原因となる場合や瘤が形成され下肢への塞栓源となることがあります。線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia)は腎動脈に生じることが多いです。外的圧迫による動脈狭窄では、外膜嚢腫、膝窩動脈捕捉症候群、胸郭出口症候群が挙げられますが、これらの疾患においては、動脈硬化性疾患に比べて若年発症が多く、動脈硬化リスクファクターのない症例が多いです。
症状は間欠性跛行(歩行により下肢痛が生じ、休息すれば症状が消失するもの)や安静時痛/下肢潰瘍/壊死(包括的高度慢性下肢虚血)があります。
検査には、機能検査であるABI(足関節上腕血圧比)、SPP(皮膚灌流圧)、トレッドミル歩行負荷試験などがあります。画像検査には、超音波検査、造影CT、血管造影検査、MRAなどがあります。

LEADの治療法

保存的治療、血管内治療(カテーテル治療)、外科手術

高血圧、糖尿病、脂質代謝異常(LDLコレステロールの上昇)、喫煙が関わっているので、生活習慣を見直すことは最重要となります。特に、禁煙は必要不可欠です。その上で、患者さんごとに、薬物や運動による保存治療から、血管内治療や外科手術といった血行再建術を組み合わせて治療を行います。

保存的治療(薬物療法や運動療法)

薬物治療は抗血小板剤が基本です。これは、いわゆる“血液をさらさらにする”薬です。もうひとつの方法として運動療法があります。間欠性跛行の場合、運動を行うことで、歩行可能距離が徐々に延び、跛行症状が改善することがあります。重篤な心臓病や呼吸器疾患がない限り、間欠性跛行の患者さんは、まずはこれらの保存的治療を試みます。しかし、このような薬物運動療法を施しても跛行症状の改善が得られなかった場合には、足への血流をさらに増やすため、血行再建術が必要となります。

血管内治療(カテーテル治療)

レントゲン透視装置を使用して、ワイヤーとカテーテルを用いて病変を治療する方法です。治療の種類としては、バルーン(風船)を膨らませることにより、狭くなっている血管を拡げるバルーン拡張術と、ステントで狭くなった血管を裏打ちすることで血管を拡げるステント術があります。局所麻酔での穿刺のみで治療を行うため、体に切開が入らず、体への負担が非常に小さいというメリットがあります。ただし、病変部位により血管内治療が不向きな部位もあり治療前の画像検査で方針を決定する必要があります。近年、血管内治療は目まぐるしく発展し、広く普及しています。

外科手術

外科手術としては、人工血管や患者さん自身の静脈を使って、閉塞のある部位を迂回するバイパス手術、そして、血管壁の肥厚した内膜や粥腫を取り除くことで閉塞した部位を開通させる内膜摘除術があります。また、これらの外科手術と血管内治療を組み合わせるハイブリッド手術もあります。外科手術は、血流を改善させるための非常に有効な治療法として確立しています。

包括的高度慢性下肢虚血 (CLTI : Chronic Limb-Threatening Ischemia)

包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)とは

日本は世界で最も高齢化が進んでおり、それに伴い「足病」を患う患者が増加の一途です。とりわけ維持透析を受けている患者さんのCLTIを合併している割合は非常に高いです。CLTIは、『虚血による安静時痛や下肢潰瘍、壊死が少なくとも2週間以上改善せず持続するもの』と定義されています。CLTIを有する患者さんの血行再建後の生命予後、下肢切断率、切断回避生存率は不良です。現代社会において、CLTIに対する取り組みは喫緊の課題とされています。

脚の切断を回避するには

足の指や踵が黒く変色し壊死してしまった場合、脚の切断が必要となる場合があります。しかし、専門病院で適切な治療(血管内治療もしくは外科的なバイパス手術)と創傷管理を受けていただくことで、脚の切断を回避できる可能性があります。足の壊死は、足の“心筋梗塞”と表現しても過言ではありません。心筋梗塞は命に直結しますが、足の壊死(足の心筋梗塞)は足の命、つまり、足自体の機能を含めた予後に直結します。壊死の小さい状態で専門医を受診して適切な治療を受ければ、足の大部分を残すことが期待できます。ただし、足の壊死は、感染を併発して急激に進行する場合も少なくありません。小さな壊死が数日で大きくなることもあります。もし、足の大切断(膝下もしくは膝上での切断)を受けることになると、その後の日常生活は大きな影響を受けます。大切断でも膝下と膝上では義足歩行の可能性や日常生活上の障害の程度に雲泥の差があります。本当に大切断がやむを得ない処置であるとすれば、何としても膝下切断になるように医師は努力すべきです。ところが、大切断をせざるを得ない場合はあります。足が壊疽になり、その範囲が足首よりも上に波及した時は、踵を救えませんので、大切断となります。壊疽が感染して、感染が足首を越えた時も、バイパスができず、感染も抑制できないことが多いので大切断になります。また大切断手術では周術期リスクが高いことが知られています。切断後30 日以内に死亡や重篤な合併症を発症するリスクが高い、ということです。また、大切断を受けると長生きできないことも知られています。デンマークにおける大切断を受けた2880人の調査では4年後に25%が亡くなり、40%が反対足の切断あるいは切断した側のさらに高位の再切断を受けており、一回の切断だけで4年間を過ごせた人は36%に過ぎなかったと報告されています。別の報告では、下腿切断を受けた患者さんが2年後には、15%の人が反対の足の切断を受け、さらに15%は膝上の再切断となっていますが、問題はさらに30%の人が亡くなっているということです。これは進行大腸癌の死亡率を上回っています。「切断されたら長生きはできない」ということを肝に銘じる必要があります。
大切断が必要かどうかの判断は、極めて専門的な知識が必要であるため、安易に切断を勧められた場合は、再考する必要があります。足の切断を勧められた場合は、必ず、適切な専門病院にて評価を行い、必要性を判断してもらいましょう。

血管内治療とバイパス手術のどちらを受けると良いのか

血管内治療とは、いわゆるカテーテル治療のことを指します。カテーテル治療は、従来の外科的治療と比べ、傷口が小さく(低侵襲)、入院期間も短期間ですむことが多いことから、近年、広く行われるようになりました。カテーテルとは、丈夫で細長いストローのような管で、鉛筆程度の太さです。脚の付け根や手から挿入し、治療すべき病変までもっていきます。そして、その中に治療道具であるバルーンやステントを通過させて病変部を拡張することで血流を改善し治療します。血管内治療は、上記のようにいくつかありますが、治療する病変の場所や性状によって変わりますので、一概にどれがいいというものはありません。また組み合わせて使われることもよくあります。
治療が終われば、使用したカテーテルを抜いて、止血をして手技の終了となります。傷口がほとんど残らないことから短期間の入院が可能です。治療後は抗血小板療法といって血をサラサラにする薬を継続的に内服する必要があり、再狭窄予防のため定期的な通院が必要になります。

バイパス手術は中枢(流入動脈)と末梢(流出動脈)に吻合できる動脈が存在すれば可能で、血管内治療と異なり、閉塞した動脈の病変の長さや性状(石灰化)は問題にはなりません。バイパス材料としては自家静脈(患者自身の静脈、最もよく用いられるものは大伏在静脈)と人工血管がありますが、自家静脈が用いられることが多く、長期成績も自家静脈が人工血管より優れています。血管内治療の最大の長所は、侵襲性(身体的負担)が低く、局所麻酔にて治療が可能な点です。短所としては細い血管・石灰化などで硬すぎる血管・長い閉塞には治療が難しく成功しない場合や、仮に成功しても再発の可能性が高いことが挙げられます。バイパス術の最大の長所は、病変血管がいかにひどい状態でも、病変の前後に正常な動脈が残っていれば治療が可能で、その後の再発も血管内治療に比べ少ないことです。
短所としては、侵襲性が高く、多くの場合で全身麻酔が必要なことが挙げられます。名古屋大学ではより低侵襲にバイパス術を行うために、麻酔科と共同して神経ブロックを併用したバイパス術などにも取り組んでいます。また、治療すべき動脈が複数部位にある場合では、血管内治療とバイパス術のそれぞれの強みを生かして、併用するハイブリッド血行再建治療もあります。閉塞性動脈硬化症で血行再建治療を受ける際には、治療する動脈の部位、下肢の症状、全身の状態を踏まえ、担当する医師に血管内治療とバイパス術の長所短所を確認し治療方法を決めていく必要があります。

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