大動脈瘤とは
大動脈瘤は大動脈(心臓から出て体の真ん中を走る最も太い動脈)が瘤(コブ)状に異常に膨らんでしまった状態を指します。主に胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤の2つに区分されます。正常の太さの1.5倍以上に膨らんだ場合を「動脈瘤」といいます。胸の大動脈(正常な太さが約3cm)では太さが4cm以上に膨らんだ場合を「胸部大動脈瘤」、お腹の大動脈(正常な太さが約2cm)では3cm以上に膨らんだ場合に「腹部大動脈瘤」と呼びます。また、両者にまたがって瘤になっているものを「胸腹部大動脈瘤」と呼びます。
大動脈瘤の原因としては動脈硬化による血管の壁の劣化が最も多いです。その他に、感染症や血管の炎症を引き起こす病気、遺伝的に血管の壁が弱い場合なども原因として知られています。
大動脈瘤の発生にはいくつかの要因が関与していますが、特に、喫煙は大動脈瘤の発生や破裂のリスクが高まる要因です。
破裂してしまうと非常に重篤な状態に陥ってそのまま亡くなってしまうことも多く、救急車で急いで病院に運ばれても命が助からないことの方が多いです。このため、破裂する前に大動脈瘤を見つけて、治療を行うことが薦められます。
どうやって見つかるの?
大動脈瘤は大切な血管が異常に膨らんできている状態ですが、ほとんどの場合、瘤が大きくなってきても症状がなかなか出現しません。多くの人はこれを自覚せず、他の健康診断で偶然見つかることがよくあります。例えば、人間ドックの検査で見つかることがあります。大動脈瘤が破裂してしまうと、治療が難しく、生命の危険が高まります。そのため、大動脈瘤が見つかったら、すぐに専門の医師に相談することが大切です。
検査は?
超音波(エコー)検査は腹部大動脈瘤を簡単で痛みもない方法で見つけるのに役立ちます。しかし、胸部大動脈瘤はエコー検査では発見が難しいことがあります。そのため、腹部や胸部の大動脈瘤を見つける際には、CT検査やMRI検査が有用です。これらの検査は、腹部だけでなく胸部の大動脈瘤も発見・診断するのに効果的です。
CTやMRIは、胸やお腹の他の病気の検査の一環として行われ、偶然に大動脈瘤が見つかることもよくあります。発見された場合、手術の方針を決めるためには、通常、造影剤を使用して精密なCT検査が行われます。これによって、動脈瘤の大きさや拡大範囲、形状、そして動脈壁の性状や破裂の有無などについて、正確な情報を得ることができます。
治療法は?
大動脈瘤が大きくなり破裂の危険性が高まってきた場合には、破裂する前に予防的に治療を行います。大動脈瘤の治療には人工血管に置換する手術やステントグラフトと呼ばれる骨組み付きの人工血管を血管内から挿入する治療があります。
名古屋大学血管外科では、ステントグラフト内挿術を積極的に行っており、その症例数は全国有数です。ステントグラフト内挿術は患者さんの体への負担も小さく、安全で効果的な方法ですが、長期成績に関してはまだ不透明な点もあります。そのため、人工血管置換術との比較を含め、患者さんにとって最適な治療法を検討する必要があります。名古屋大学血管外科では、個々の患者さんに対して最適な治療法を選択しています。病状や患者さんの状態に応じて、手術やステントグラフトなどの選択肢を検討し、患者さんにとって最も有益な治療計画を立てています。これにより、安全かつ効果的な治療を提供しています。
胸部大動脈
ステントグラフト内挿術
(TEVAR)
腹部大動脈
ステントグラフト内挿術
(EVAR)
胸部大動脈瘤の治療
胸部大動脈瘤の治療法には以下の手術方法があります。名古屋大学では心臓外科と血管外科による合同会議を定期的に開いて、患者さんの具体的な状態や症例によって最適な治療法を選択しています。
人工血管置換術
開胸もしくは胸骨正中切開で動脈瘤に到達し、人工血管で置換します。胸部大動脈瘤に対する人工血管置換術は名古屋大学では多くの場合、心臓外科で行われます。
ステントグラフト内挿術
日本では2008年から胸部大動脈瘤に対してステントグラフトが使用可能となり、名古屋大学血管外科では当初より積極的に導入しています。
手術による分枝再建+
ステントグラフト内挿術
頭部や上肢への分枝起始部に動脈瘤が及んでいる場合、単純なステントグラフト留置では治療できません。このような症例にも対応できるような分枝付きステントグラフトの開発も進行中ですが、現時点ではまだ使用できません。
このような場合、あらかじめバイパス術を行った後にステントグラフトを内挿するハイブリッド治療が最も低侵襲な治療法です。また、ステントグラフトにその場で穴を開けて頭部の血流を維持する方法も取り入れています。
胸腹部大動脈瘤の治療
患者さんの具体的な状態や治療への耐性に応じて以下の治療法が選択されます。患者さんとの十分なコミュニケーションと同意の下、最適な治療法を検討します。
人工血管置換術
開胸開腹で動脈瘤に到達し、人工血管置換と腹部内臓分枝の再建を行います。
最も困難で患者さんの体の負担も大きい手術の一つで、手術死亡や合併症の問題があります。
自作開窓型ステントグラフト内挿術
胸腹部大動脈瘤では(肝臓や膵臓、腎臓などへの)腹部内臓分枝起始部に動脈瘤が及んでいるため、単純なステントグラフト留置では治療できません。
欧米ではこのような症例への穴開きもしくは分枝付きステントグラフトが行われておりますが、本邦では保険適応外の治療となります。しかしながら、人工血管置換術を受けることが困難な状態の患者さんに対しては現実的には唯一の治療法となります。名古屋大学血管外科ではこのようなリスクの高い患者さんに対しては患者さんの同意の下、市販のステントグラフトに改造を加えることでステントグラフト治療を実施しています。
ステントグラフトに穴を開けておくことで、内臓分枝の血流を温存できます。
手術による分枝再建+
ステントグラフト内挿術
あらかじめ開腹でバイパス術を行った後にステントグラフトを内挿するハイブリッド治療です。開胸開腹手術よりは侵襲が少ないですが、通常のステントグラフトよりは複雑な術式となります。患者さんの耐術能や、血管の解剖学的な特徴を十分に考慮して術式を選択します。
開胸せずにステントグラフト治療が可能になります。
腹部大動脈瘤の治療
腹部大動脈瘤に関しては、患者さんの状態や治療への耐性に応じて以下の治療法が選択されます。腹部大動脈瘤に関しては、海外での長期成績に関する研究の結果から、ステントグラフト内挿術の弱点も明らかになってきています。名古屋大学血管外科では患者さんとの十分なコミュニケーションと慎重な検討を通じて、最適な治療法を選択しています。
人工血管置換術
全身麻酔を掛けて開腹で動脈瘤に到達し、人工血管に置換します。
手術死亡は名古屋大学血管外科では約1%と現在では比較的安全な手術術式となりましたが、患者さんの体への負担はやはり大きく、術後の回復にある程度の時間を要します。
長期成績(手術を受けてから10〜15年以上、長持ちするか)に関しては優れた実績が証明されています。
ステントグラフト内挿術
日本では2006年から腹部用ステントグラフトが使用可能となり、名古屋大学血管外科では当初より積極的に導入し、通算で1000例以上を施行しています。患者さんの体への負担は人工血管置換術よりも圧倒的に小さく、手術死亡率は0.5%以下です。入院期間も短く済む場合がほとんどです。しかし、術後もずっと外来通院で定期的なチェックが必要なことや、長期成績に関する実績に不透明な点があることには注意が必要です。